では、「聞く」と「読む」はどちらを先に始めたほうがいいか、というと、私は両方を同時に、平行して学習するのがよいと思います。どちらが重要かと聞かれれば、私は語学学習一般には、「聞く」事が一番大切だと思います。ネイティブの赤ちゃんが言語を習得する過程を考えればこれは当然ですよね。彼らはまず周囲の人間の言っていることを「聞く」ことしかできないわけです。ひたすら聞いた結果、話されている音の構成要素を認識して、最終的に意味のある言語として理解するわけです。したがって、言語習得以前に、音声の構成要素を認識することなくして、本当の意味で言語を習得できるはずはありません。これは、英語学習では一般に「フォニックス」と呼ばれる学習法です。単語の意味を理解する前に、とにかく音の構成要素を理解するわけです。しかし、これは「学習」というより、「練習」に近いものであり、ひたすら聞く以外に有効な習得法は無いと思われます。それも、BGMのようにただ聞くのではなく、集中して、意識的に音をとることが大切です。
これらのことを念頭において、私がお勧めする学習法は、まずはウォークマンなどを使って、通勤時間などにひたすら英語を聞くこと、できれば、集中して意識的に音をとるようにすることです。同時に、聞いた音を口でリピートすることも大切です。ネイティブの赤ちゃんもそうですが、聞いた音をとにかくまねするというのが、語学学習においては大きな意味があります。これは、スピーキングの練習になるということ以上に、口を動かして能動的に聞くことにより、脳を活性化させる働きがあります。音をださずとも、口を動かすだけでも、大きな効果があるでしょう。
さらに、「ディクテーション」という学習方法も同時に進めます。これは、聞いた単語をその場で書き取る、という単純な方法ですが、大きな効果が期待できます。既に一つの言語を習得している大人が第二言語を学ぶ際に、既にある言語回路を活用できるという点で、最も効果的な学習法の一つだと思います。ところで、ネイティブの子供が英語を学ぶ環境と、日本人の大人が英語を学ぶ環境とは当然大きく異なります。これを考慮に入れずに、ただネイティブの赤ちゃんが英語を学ぶ方法だからといって、むやみに取り入れるのは意味がありません。違いを認識した上で、それぞれの立場に合った方法を行うのが、言語学習においては特に大切です。
それでは、ネイティブの赤ちゃんと、英語を学習している一般の大人の、英語学習における最も大きな違いは何かと言えば、大人は既に頭の中に言語の回路ができている、ということです。大人が第二言語を学習する場合は、この既にある回路を活用して学習することが大切です。ディクテイションは、聞き取った言語を書き取ることにより、音声を意味のある言語と結びつけることができます。スペリングはもちろん、書き取った単語の意味を辞書等で調べることにより、聞き取ったそれぞれの単語を意味のある言語として、身に着けることができます。暗記は一般に、無味乾燥な記号の羅列より、音声、スペリング、そして意味のように、一つの単語を多角的に結びつけて理解したほうが、容易になるのです。
大人の英語学習者は既に、言語の背景となる様々な知識を数多く持っています。これは言語を学習する際に邪魔になるものもあれば、役に立つものもあります。これを前提として、学習の方法を考えるということが、私は言語習得においては特に大切なことだと思います。
コメント